世界中の誰よりも

キッチンに入ってきたあたしに気づき、母が僅かに驚いた顔をする。


「どうしたの? あ、お腹空いた?」

「あ、うん」


本当はそんなにお腹は空いてないけど。
あたしの言葉に、母はにこりと笑った。


「ちょうどマフィンを焼いたのよ」


ふわぁんと甘い香が鼻をかすめる。

あたしはその一つを手に取り、ぱくりとかじった。

懐かしい、優しい甘さ。

小さい頃大好きだった母の手作りマフィン。


「紅茶いれるわね」


まだ幼かったあたしと兄が、欲張って取り合って食べたマフィン。

おやつを家で食べなくなって、友達と買い食いばかりし始めたのは、いつからだったろう。
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