世界中の誰よりも
しばらくして母が階段の下からあたしを呼ぶ声がした。
返事をしてキッチンに下りると、温かそうな夕食が並べられていた。
テーブルのあたしの席につこうとしたら、スーツから着替えた父がやってきた。
「あ、おかえり」
何も考えず、ぽろっと言った言葉だったけれど、父も母もわずかに目を見開いた。
「え、なに?」
困惑してあたしが聞くと、二人はふうわりと幸せそうに笑った。
「何でもない。ただいま」
父は笑顔のまま、あたしにそう答えた。
二人して、そんなに驚かなくても良いのに。
あたしがおかえりって言ったくらいで。