世界中の誰よりも

しばらくして母が階段の下からあたしを呼ぶ声がした。

返事をしてキッチンに下りると、温かそうな夕食が並べられていた。

テーブルのあたしの席につこうとしたら、スーツから着替えた父がやってきた。


「あ、おかえり」


何も考えず、ぽろっと言った言葉だったけれど、父も母もわずかに目を見開いた。


「え、なに?」


困惑してあたしが聞くと、二人はふうわりと幸せそうに笑った。


「何でもない。ただいま」


父は笑顔のまま、あたしにそう答えた。

二人して、そんなに驚かなくても良いのに。
あたしがおかえりって言ったくらいで。
< 196 / 264 >

この作品をシェア

pagetop