世界中の誰よりも
キッチンからはリビングが見渡せる。
リビングのソファーに父の姿を確認した。
テレビを観ている父の背中からは怒りのオーラが見えるようだった。
「真っ直ぐ帰れと言っただろう」
背を向けたまま、低く響く声で父は言った。
「補習だったんだよ」
「こんな時間まであるわけないだろう」
時刻は20時半。
明らかな嘘だった。
「色々あるんだもん」
あたしは母が温め直したカレーを口に運ぶ。
母は流しで食器を洗い始める。
「口答えするな! 黙って言うことを聞きなさい!」
あたしはそこからは何も言い返さなかった。
いつも美味しい母のカレーが、今日は味がしなかった。