世界中の誰よりも

あたしと父と母の静かな夕食が始まる。

兄は遠くの大学に通うために、今年の春に家を出て行った。

あたしも兄も小さかった頃は、食卓も随分賑やかだった。

大きなお皿におかずを盛って、みんなで取り合いしながら食べていた。

今ではおかずはあらかじめ分けられていて、みんな黙々と片付けてゆく。


この沈黙を破るのはなかなか難しい。

父や母が簡単な会話をしたり、あたしに勉強の説教をするくらい。

あたしが話題を振るには、タイミングを見計らわなければいけない。
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