世界中の誰よりも

父が好物のコロッケを口に運んだ時、あたしはやっと切り出した。


「お父さん、あたしバイトしたいんだ」


父はちらりとあたしを見ると、コロッケを咀嚼して飲み込んだ。


「どうしてだ」


家に居たくないから、なんて言える訳ない。


「お金が欲しいからだよ」

「ちゃんと毎月小遣いをやってるじゃないか」


父は濃いめにいれたお茶をずずっとすすった。

あたしの毎月のお小遣は5千円。
これだけで遊びや洋服や化粧品をやり繰りしなきゃいけない。
< 51 / 264 >

この作品をシェア

pagetop