世界中の誰よりも
「また今度にするか」
そう言った信也先輩の制服の裾を思わずつかむ。
「行きます」
少しだけ語尾が震えたけど、ニッコリ笑ってあたしは言った。
信也先輩の家は駅前の大通りに近い住宅地にあった。
小さな子供たちが走り回って遊ぶそばを抜けて、信也先輩は一軒の白い壁の家にあたしを促した。
「どうぞ。今、親居ないから気兼ねなくて良いよ」
親が居ないと聞いて安心した反面、本当に二人きりだという緊張が増す。
信也先輩はなんてことない顔で、玄関からすぐの階段を上る。
あたしは脱いだ靴を丁寧に揃えて信也先輩の後を追った。