世界中の誰よりも
ついっと父の脇をすり抜けてリビングに入ると母が居た。
「あら、幸。ご飯あるわよ」
リビングの隣がキッチンで、テーブルの上にはラップのかけられた肉じゃがと魚が見えた。
ご飯なんか食べる気になれなくて、あたしは首を振る。
「要らない」
「また? 要らないなら先に言って欲しいわ」
母のため息がいつもより欝陶しく感じられて、苛立ちがつのる。
「誰と何をやってたんだ。毎日毎日、いい加減にしないか」
あたしに続いてリビングに入ってきた父が言う。
誰と。
何を。
今は思い出したくないこと。
手がわずかに震える。