【完結】泣き虫姫のご主人様
「朝宮……れい?」
「え?」
「あっ……すみません! 手帳が落ちていたもので……」
先ほどバラバラになってしまった鞄の中身から、澪の手帳が出てしまったらしい。
「いえ……あ、あたしは朝宮澪って言うんです」
「みお……さん?」
「はい」
澪が笑うと、彼女も笑った。
その笑顔は、女の澪でも、ときめいてしまうような笑顔だった。
「その制服……私立の」
「あ、はい。私、雛子と言います」
「ひなこ……さん?」
雛子は笑いながら、軽く澪に会釈した。
……なんか、お嬢様って感じ。
「それじゃあ! 私、時間やばいんで!」
スクッと立ち上がり、澪は雛子にお礼を言った。
「……?」
雛子が、澪の腕を掴み、言った。
「……お友達になりません?」
その綺麗過ぎる笑顔に、澪の背筋に悪寒が走った。
おかしいとは思った。
けれど、雛子に見つめられ、澪は不思議な感覚に襲われた。
「え、あの……」
澪が戸惑っていると、雛子はニコリと笑いながら手を差し延べてきた。
「私のことは……雛って呼んで?」
澪に、選択権などなかった。
そのまま澪は雛子の手をとった。
「私は……」
「澪ちゃん。そう呼ばせて?」
クスリと雛子は微笑みながら立ち上がった。
不思議な気分になっていくのが、よくわからなかった。
「……はい」
「よろしくね、澪ちゃん」
澪の胸に小さな衝動が生まれた。