【完結】泣き虫姫のご主人様


 * * *



 学校につくと、またいつもの生活が始まった。


 相変わらず、女子の視線が痛い。



 いつまで続ける気なんだろうか。


 いい加減、ため息が出る。


 そしてこの人も。




「よー! 姫っ……久しぶり」



「うわ……!」


 澪の肩にのしかかる長い腕。


 そしてこの香りは……。




「稚尋!」



 いつもの稚尋。


 だけど今は、あの日のような真剣な彼じゃない。



 ニコニコと怪しい笑顔が鼻につく、学校での稚尋の顔だ。



「なぁにー? 二人して。なんか親密度上がってない?」



 暎梨奈の登場。



「そっそんなことないよ?」



 慌てる澪の胸元で、胸元のイルカが揺れた。



 それをすかさず見つける暎梨奈。




「……あれ? こんなのつけてたっけ?」



 探偵のように鋭い目で、澪を観察する暎梨奈。




 必死に目をそらす澪が稚尋に助けを求めると、平然と稚尋が言った。



「あー、ソレ? 俺がやったやつ。まー……首輪的な?」


 そう言って、ニヤリと笑う稚尋。



 稚尋に助けを求めたのが間違いだった。



「私は犬じゃない!」




「あれぇ? そうなのー? 俺の前ではやけに大人しくなるくせに」


「なっ……!」



「はいはい、そこでやめ! あんまり他の女子を挑発すんの、やめなよ……澪が可哀相」



「えーりぃ……」


 ちょうどいいところで、暎梨奈が助けてくれた。




「んだよ、えり」



 ふてくされる稚尋は本当に子供みたいだ。



 こんな稚尋の姿、久しぶりに見た気がする。



 最近は、泣きそうな稚尋ばかりを見ていた気がするから。


 でも、よかった。


 他愛のない会話の中にも、澪は確かに幸せを感じていた。



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