【完結】泣き虫姫のご主人様
* * *
「…………どーしよ」
澪は正直、運動が苦手だ。
……嫌だなぁ。
澪の隣には、稚尋がいることが当たり前になっていた。
不思議だった。
別に、付き合っているつもりはない。
澪と稚尋の関係は、友達以上恋人未満、そんな関係だ。
「どうしたんだよ? そんな暗い顔して」
うつむく澪の顔を、稚尋が覗き込む。
そんなこと、何度もされているし、それが稚尋の癖だってわかっているけど、相変わらずな稚尋の行動に慣れる訳でもなく、顔を真っ赤にさせてしまう。
「何、そんなに俯いて。こっち向けよ」
「……ちょっ!」
澪の顔は、意図も簡単に稚尋の前に差し出されてしまう。
澪の真っ赤な顔を見て、稚尋は嬉しそうに笑った。
澪は必死に顔を反らすが、そんな抵抗で稚尋が引き下がる訳もない。
「逃がさないよ?」
稚尋は意図も簡単に澪の体を引き寄せる。
いくら放課後の教室にいるからって……。
駄目だよ……。
瞳を潤ませる澪を見て、稚尋は視線を外した。
澪の鼻に、ツーンとした感覚が走った。
「……駄目」
稚尋の手が、澪の瞳に覆いかぶさった。
視界が真っ暗になる。
「……ち……」
「その瞳はナシ」
稚尋は澪から視線を外しながら、そう言った。
“その瞳はナシ”
そんな事言われたって、無理だよ。
私の涙腺がゆるいのは、初めから知ってたでしょう?
稚尋と初めて会ったあの時も、澪は性懲りもなく泣き続けていた。
稚尋が澪に迫る度、嫌だと拒みながら。
それでも稚尋、あなたは幾度となく私に近づいたよね。
ねぇ、稚尋。