【完結】泣き虫姫のご主人様





 そんな私の行動に、本当はどんな気持ちだったの?


 すぐに、諦めようとか思わなかった?



 澪は稚尋の手を、そっと離す。


「…………姫?」


 その笑顔は、自分を守るためのものだったんじゃないの?



「……名前で呼んで」



 澪は稚尋の事を何も知らない。



 たった数カ月しか一緒にいないけど。


「…………澪」


 稚尋がそれでもいいんなら、そんな私でも、笑っててくれるなら。



「……馬鹿」



 気持ちは素直なのに、体が言う事を聞いてくれない。



 “好き”



 そうあなたに言おうとするけれど、澪の口から出る言葉は。



 “嫌い”


 分かってる。


 そんなこと言われたら、誰だって傷つくって事くらい。


 暎梨奈の事があったから、それは尚更身に染みてる。

 きっと、私は弱いから。


私だったら直ぐに泣いてしまう。



 私には、傷を隠して笑い続けるなんて出来ない。



 私は、稚尋みたいにはなれない。


「……キス、してもいい?」



 教室の二人を、夕日だけが幻想的に映し出していた。


 それはとても美しく。


 映画のワンシーンのようだった。



「ここで?」


 澪が驚きながら稚尋に聞き返すと、稚尋は笑顔で頷いて見せた。




 誰に見られているかわからない。



 澪の鼓動が一気に加速するのがわかった。



 稚尋が優しい……?


 澪はまた、初めて稚尋と出会った時のシチュエーションを思い出す。



 初めてのキスは、すごく乱暴だった。





 澪の気持ちなんて、微塵も考えていない、ただ奪うだけのようなキス。


 あの行動に、初めは稚尋を嫌いになった。



 あの時は本当に。


 “好き”


 そんな感情は存在していなかった。



 だけど、やっぱり私は馬鹿だから、あなたの優しさに負けちゃったんだよね。



「……いい?」



「だって……ここ、教室……」



 稚尋が机に手をついて、グイッと澪に近づいた。





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