【完結】泣き虫姫のご主人様
* * *
「失礼しまーす」
保健室の扉が開く。
通い慣れた保健室の香りに、少しだけ心が落ち着いた。
保健室には誰もいないようだった。
澪が胸を撫で下ろした瞬間、耳元で聞こえた金属音。
ガチャリと音のした方に視線を向ければ。
……まさか。
「さ、くら……君?」
その、まさかだった。
「鍵閉めた」
期待を裏切らない言葉に、案外、驚きはしなかった。
「何がしたいの?」
ようやく聞くことができた。
澪の質問に、稚尋は壁にもたれ掛かりながら答えた。
「だーかーらー……俺はお前が気に入ったんだって!」
「気に入ったって何!?」
澪には、稚尋の言葉の意味がさっぱりわからなかった。
澪が半分叫ぶように質問すると、稚尋はため息をついてこちらに歩み寄ってきた。
思わず、体が強張る。
澪の目の前に立った稚尋は、澪の頬にそっと触れる。
そして、言った。
「お前を、俺のものにしたくなったって……こと」
低く甘い声が、澪の背筋を駆け巡る。
私が、稚尋のもの?
「は……?」
だから、わざと小林くんの前で“俺の女だ”なんて言ったの?
私を手に入れたのを見せつけるために?
「わかんない? 俺の女になればいいってことなんだけど……」
稚尋はわざと澪の顔を覗き込むように見て、そっと顔を近づけた。
「どうする?」
心底楽しそうに、まるでゲームを楽しんでいる子供のような、無邪気な瞳だった。
そんな彼の栗色の髪が、澪の額を掠めていく。