【完結】泣き虫姫のご主人様
─────体育祭当日─────
「あー来ちゃった、この日が来ちゃったよ」
澪は暎梨奈の隣で頭を抱えていた。
最悪の日だ。
「しょうがないでしょ、来ちゃったんだから」
そう言って、暎梨奈は笑って見せた。
「ちょっ……そういう事言わないでよ」
澪は思わずため息をつく。
そんな澪の肩を、暎梨奈はバシッと叩いた。
「ほらっ! 稚尋リレーじゃん!! アンカーとかっ……速っ!」
「え!?」
言われるがまま、澪は視線をトラックにうつした。
その時、稚尋が澪の目の前を走り抜けた。
「速い……」
誰も寄せ付けないような、圧倒される走り。
結果は当然、ぶっちぎりで一位。
足、あんなに速かったんだ……。
本当に、私は稚尋のことを何も知らないんだな……。
そう考えると、悲しくなってしまった。
「かっこよく見えた?」
暎梨奈が笑顔で聞いてくる。
その笑顔からは、あの日の事なんて、嘘みたいに思えた。
「さぁ?」
かっこよく見えたというか、意外な才能を見つけてびっくり……の方が正しいかも知れない。
「あー……この後すぐに借り物競争だね」
不意に、暎梨奈がそんな事を呟いた。
その言葉に、澪は静止してしまう。
「えっ!?」
「えっ……て、プログラム見なよ」
澪は慌てて、暎梨奈に言われたようにプログラムを取り出した。
8、男子対抗リレー
9、借り物競争《三年》
あぁ……本当だ。
澪の背中に急に冷や汗が伝った。
「ほ、……本当、無理!!」