【完結】泣き虫姫のご主人様




「痛っ、いてーよ! 離せ!」



 冬歌はようやく、稚尋の頬から指を離した。



 そして、冬歌は再びため息をついた。


「で? その気になった訳?」



「とっくに。澪は守らねーといけねぇからな」



 稚尋はそう言いながら、遠くで笑っている澪を見つめた。



 あいつだけは、絶対に俺が守らなくちゃいけない。


 稚尋はそう決意し、拳を固く結んだ。



「へー、男らしいじゃん?」


 冬歌はそう言って、稚尋を鼻で笑った。



 そんな冬歌に、稚尋もまた笑って見せた。


「男だっつーの」



「あ、そ」





 言葉がなくても、最後くらいはちゃんとわかり合える。


 少なくとも、冬歌は稚尋を五歳の頃からずっと見続けている。


 冬歌と稚尋。



 姉弟になったあの日から、あたしはあたしの決心を曲げるつもりなんてない。


 “稚尋はあたしが守る”



 稚尋が澪を守りたいと思うように。


 あたしは稚尋を守る。



 毎日、自分に聞かせているんだ。



「じゃ、頑張って」



「あぁ」


 二人は視線を合わせ、また再び別々の道を歩き出した。



 遠くでは、雛子と澪の笑顔が輝いていた。



< 116 / 155 >

この作品をシェア

pagetop