【完結】泣き虫姫のご主人様



 澪が走り去った後、稚尋は雛子を突き放した。



「雛、どういうつもりだ」


 澪を泣かせやがって。


 お前も、澪を騙してたのか?

 悪びれる素振りのない雛子に、稚尋は呆れたように大きなため息をついた。


 稚尋を見て、雛子はニヤリと笑う。



「どう言うつもりって……雛はちーに会いに来たんだよ?」



「説明になってない」



 甘ったるい声で呟く雛子の声を、稚尋は切り捨てた。

 それを見て、雛子は頬を膨らませた。


 なによ。


 なによ……!



「フンッ……形勢が変わったみたいね? ちーが好きな雛に、雛が嫌いなちー」


 昔は逆だった。


 そう呟きながら、雛子はまた稚尋の腕に擦り寄った。




「嫌いじゃないけど、好きでもない」


 確かにほんの少し前は、稚尋はお前を引きずっていた。



 だけど、澪に会って変わったんだ。



「曖昧ね」


 そう言って、雛子はフッと鼻で笑った。



 そして。


「でも……あのキスは雛だけのものだよ?」



 雛子は不気味に笑った。



「…………」


 自分はどれだけ間違いを犯してきてしまったのだろうか。



 正直、後悔している。



「悪かった」



 今更謝ったところで何かが変わる訳ではない。



「ごめん、雛っ……」



 稚尋は澪の後を追った。



 お姫様。


 君を一人で泣かせる訳にはいかない。



 俺が、行かなくちゃ。


 姫…………。



 雛子は歯を食いしばった。


「何よ……っ!」




< 118 / 155 >

この作品をシェア

pagetop