【完結】泣き虫姫のご主人様





「っ……」




 その近さに違和感を感じながら、澪は稚尋の顔を見た。










 目鼻立ちが整った、キレイな顔。














 そんな彼から香る、この香りは何だろうか。


 甘い香り。




 まるで、人を惑わせるような、そんな香り。






 普通に出会っていれば、澪は稚尋に恋をしていたかも知れない。





 普通に出会っていれば、だ。







「私は……あんたのものなんかには、ならない……!」



 出会い方を間違えた。


 あなたは、私を傷つけた。










 澪が必死に稚尋を睨み付けていると、稚尋の手のひらがゆっくりと伸びてきた。










 そして、稚尋は澪の両頬を片手で掴む。


 顔を固定されているせいで、身動き一つ出来ない。















 次第に込み上げる澪の涙は、稚尋の指を濡らした。











「やだっ……はなしてよ!」





 澪の抵抗にもびくともしない稚尋の腕。








 稚尋は表情一つ崩さずに澪を見つめていた。




 いやだ……。



 これ以上、見ないでよ。


 澪の気持ちとは裏腹に、涙は止まらなかった。






 澪は、泣き虫な自分が大嫌いだった。










 澪の瞳から新たな涙が零れた時、黙っていた稚尋が口を開いた。





「……泣き虫」









「うるさいっ!」





 稚尋は笑いながら言った。


 その言葉が、澪を縛り付ける。



 嫌なはずなのに。



「じゃあ、お前に絶対、俺の事好きだって言わせてやるからな?」







「言わないっ!」





 本気で抵抗出来なくなる。


 私は、おかしくなってしまったかもしれない。





「……あっそ」





 稚尋は呆れたようにため息をつく。












 そして、何を思ったか、動けない澪に稚尋は無理矢理唇を重ねた。










「……んっ……!?」










 突然の出来事に、澪は固まる。





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