【完結】泣き虫姫のご主人様
「それってヤキモチってこと?」
そう言いながら、稚尋は澪の頬を伝う涙を指で拭った。
……いつの間にか、私は稚尋にはまってるんだね。ちょっと、悔しい。
「……私が?」
「そうなんじゃない? ……その涙が、証拠でしょ」
「……」
保健室の外では、三年生による、学級対抗リレーが行われていた。
稚尋は澪の小さな手を握った。
その稚尋の手の平が、澪の手をすっぽりと覆っていた。
稚尋の指は、冷たかった。
「……格好悪いよ、ヤキモチなんて」
「そう? 可愛いと思うけど?」
ニヤリと、稚尋が笑った。
また、それだ。
「可愛いとか言わないでよ……」
「照れてる?」
恥ずかしい。
澪の顔が、赤く染まる。
いつもだ。
稚尋は澪が赤くなるのを見て、喜ぶ。
でも、それも、稚尋の不器用な愛情表現なのだとしたら、だったら、まだ許せる。
特別だよ?
「そろそろ、戻らない?」
稚尋の手が、澪から離れた。
稚尋は不思議そうに稚尋を見つめる澪の額にキスを落とす
「大丈夫、ちゃんとけじめつけるから」
そう言って、笑った。
「あたし……雛とはちゃんとした友達じゃなかったのかな」
雛子とは会ってまだ間もないし、ただ利用されてただけなのかも知れない。
「澪」
突然稚尋に名前を呼ばれ、澪は肩を震わせた。
稚尋は既に自身のワイシャツを正し、長椅子から立ち上がっていた。
…………甘い香が鼻を掠めた。