【完結】泣き虫姫のご主人様






「……そう、かもな」












 雛子は、稚尋の瞳を見ようとはしなかった。














 ただ、うつむき、言葉を続けるだけ。

















「…………ちーは澪ちゃんが好きなんだね?」



 その声も、聞き取るのがやっとだった。




「あぁ」


 それは嘘偽りなく、はっきり言える。


 雛子は、窓の外に視線をうつした。




 雛子の整った顔が、夕日のせいで、オレンジ色に染まった。






 その空間に流れる、時間。不思議な気分だった。









「澪ちゃんとは……まだ一度しか、会って話した事がないの……今日で二度目。だけど……雛も思ったんだよ? 前に町で澪ちゃんを見かけた事があったの」



 その時甘い匂いが鼻を掠めた。ちーの、大好きな匂い。






 雛子は外を見つめながら、続けた。






 その言葉を、稚尋はただ聞いていた。




「澪ちゃん……初対面で友達になろうって言った雛に……いいよって言った。笑ってた……そんな澪ちゃん見てたら胸が苦しくて」


 雛子が表情を変えることはない。


 ただ、単調に言葉を口から紡ぐだけ。











「澪は……不思議な奴なんだよな」










 どうしても、誰もあいつを心から“嫌い”になんてなれない。







 いつの間にか“好き”になってる。











 泣き虫だと思っていると、見えるのは極上の笑顔で、その笑顔が心を満たす。

















 本当、不思議な奴。





















「……なんか、ちーが澪ちゃんを好きになった理由、ちょっとならわかる」






 雛子は、稚尋に笑顔を見せた。



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