【完結】泣き虫姫のご主人様







 この、過去の傷を自らの手でえぐるか。もしくは…………。









 自分の、今の気持ちに従うべきか…………?




 答えは。俺の、答えは。





「…………ちー?」










 稚尋は、雛子の額にそっと触れるだけのキスを落とした。







 俺は自らの手で、傷をえぐるような事はしない。過去は、振り返らない。






 それが、未来のため。



「自暴自棄になってるだろ、お前」




 きっと、今の雛子は少し前の俺だ。



 やるせない気持ちを他人にぶつける。



 そう言う事しか、出来ないでいるんだ…………。

















「……なんで」









「わかるよ……雛は、ずっと俺を支えて来てくれたんだから」











 小さい頃からいつも隣にいた存在だったから、雛子が悲しい顔をしてれば、わかる。










 そう言う女なんだ、雛子は。






「…………やっぱ、ちーには嘘が通用しないね」






 雛子はそう言って、笑った。



















 その時だった。教室の扉が、開いた。




 稚尋は思わず肩を震わせる。








「……ちー、お迎えが来たみたいだよ?」





 雛子が、笑いながら教室の扉を指差した。
















 その物音の正体は稚尋の、愛しい者だった。




< 139 / 155 >

この作品をシェア

pagetop