【完結】泣き虫姫のご主人様
「……早く、俺の女になれよ……」
そう言って、稚尋は笑顔を見せた。
その不敵な笑顔を見た途端、澪の背筋に寒気が走った。
心臓が、鳴りやまない。
やめてよ。
その顔……。
そんな言葉……。
澪は瞳を固く閉じた。
見たくなんて、ない。
稚尋のことなんて。
自分が自分じゃなくなる気がする。
「…………じゃあな、姫」
小さく稚尋の笑い声が聞こえた。
稚尋が澪から遠ざかっていく。
澪はそっと瞳を開く。
その時、最後に見た光景は。
ちょうど閉まった保健室の扉だった。
最後に、稚尋の顔を見ることはなかった。
残っているのは、いまだ手をつけていない稚尋の青いハンカチ。
無造作にふとももに置かれたハンカチは、少しシワがあった。
これは、不器用な彼の優しさなのだろうか?
そう思うと、なんだか笑えてきた。
「っ……ははっ……」
澪は素直に稚尋がくれたハンカチを手にとり、涙を拭いた。
そのハンカチは、お日様の匂いがした。
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