【完結】泣き虫姫のご主人様






「だったら、あんな無理矢理なキス……する!?」



 声が、自然と小さくなった。


 やはり、事実とはいえ恥ずかしい。


 しかし、暎梨奈は変わらず笑顔で言った。







「澪に自分のこと、意識させたかったんじゃない? 澪は? 好きなの?」






 私が、稚尋のことを?




 そんなこと、考えたこともなかった……。







「好きな訳ないでしょ! むしろ、嫌いよ!」






「澪~顔赤いよぉ?」









 暎梨奈は澪を挑発するかのように、言った。








「えぇっ!?」





 そんな訳ない。




 私が稚尋を──?







 絶対ない。


 冷静に考えてみてもあり得ないだろう。だって私は、“稚尋が嫌い”なんだから。




 澪は小林大輔にフラれたばかりだ。



 もっと落ち込んでもいいはずだ。


 考えてみれば、色々とおかしい点がある。


 澪は、フラれたことすらも忘れかけていた。


 それどころか、悲しみも。


 本当は、そこまでショックではなかったのだろうか。




 小林くんがあんなに簡単に、私を稚尋の女だって認めるなんて思ってもみなかった。


 何の疑問も持たずに認めた所も、全てが上手くいきすぎている。








 もし、本当にそうだとしたら。



 どうしてなんだろう──……?



「あ゛ぁ~ッ! わかんないよ!」









「ゆっくりわかるようになるって!」



「んー!」






「相談なら付き合うよ、ずっと♪」




 本当に、暎梨奈がいてくれてよかった。





 澪は心からそう思っていた。















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