【完結】泣き虫姫のご主人様
あれから三日、澪は稚尋と会うどころか、顔も見ていない。
洗ったハンカチを返したかっただけなのに。
ハンカチを返して、一言言いたかった。
“ありがとう”って。
……待ってるだけじゃ、ダメだってことくらい、私にだってわかる。
「よしっ!」
そう思った澪は、暎梨奈の姿を捜した。
暎梨奈はすぐに稚尋の居場所を教えてくれた。
『学校の裏口付近にいると思うけど……。』
そう教えてくれた暎梨奈の顔はどこか暗かった。
澪はその理由を聞いた。
すると。
『会うのは今じゃなく、後にしたら? 今がいいっていうなら、止めないけど。あいつの本性、知っちゃうよ……? 多分』
稚尋の本性?
『何? それ……』
『…………』
暎梨奈は何も言わなかった。
その代わり、無言で首を横に振った。
澪に向かい、暎梨奈は、最後にこう言った。
『自分に、自信を持ちなよ?』
それがどういう意味なのか、澪にはわからなかった。
小走りに暎梨奈に教えてもらった学校の裏口に澪は来ていた。
この扉を開ければ、稚尋はいるのだろうか……?
高鳴る胸を押さえながら、重い扉にゆっくりと手をかける
扉は重さの割に大きな音もなく開いた。
……稚尋?
次の瞬間、澪の耳に稚尋の声が聞こえた。
澪は自分の体が硬直していくのがはっきりとわかった。
「薫っ……」
知らない女の子の名前を呼ぶ稚尋。
稚尋を求める女の子。
私は、馬鹿だ。
そうだ。稚尋は、そういう人なんだ。
わかってる。
わかってた。
わかってた、つもりだった。
「薫、可愛いよ……」
だから。
だから余計に見たくなかったんだ……。
馬鹿だ、私。
「終わらせねぇよ?……」
腰が砕けそうな彼女の腰に腕を回す稚尋。
裏口のすぐ隣の非常階段から、それがはっきりと見える。
と……いうか、腰が抜けていた澪は、嫌でもその光景を見続けることになった。