【完結】泣き虫姫のご主人様
澪の言葉に、稚尋は目を見開いて驚いた。
それは、がっかりしたように、つまらなそうにも見えた。
「……見たの?」
稚尋の声はいつもより低かった。
「見たくて見たんじゃないし……っ」
そう、動けなかっただけ。あれは不可抗力だ。
「……ふーん」
稚尋は焦る素振りも見せず、ただ澪を見つめていた。
「何よ、その返事。私以外にも……可愛いなんて、何度も言ったんでしょう?」
全部見てたから、わかってしまう。
「……いつ、それ」
稚尋は澪を真っすぐに見つめ、言った。
その瞳に笑顔はない。
耐えきれず、澪は視線をそらしながら答えた。
「この前の……」
「女の名前は?」
そう言われ、気づいた。
そうか。
稚尋は、そうやって何人とも関係をもっていたんだ。
どの娘と一緒だったか、なんて、検討もつかないんだ……。
「薫って……」
わかってた。
そういう男の子なんだってことも。
だけど、悔しい。
澪の答えに、稚尋はため息をついてぶっきらぼうに答えた。
「あぁ、あいつか……」
澪には、稚尋の態度が信じられなかった。
「……馬鹿じゃないの?」
「え?」
「こんなことして……何がしたいのよ」
稚尋の考えていることがわからない。
人を弄ぶ気持ちが理解できない。
澪は稚尋にそう言った。
澪の言葉に、稚尋はニヤリと笑って言った。
「何がしたいか、か?」
稚尋の指によって、澪の顎が稚尋の顔の近くまで近づけられる。
こうして心拍数が上がってしまうのは、ただの生理現象だ。
ただ、同級生の男の子が近くにいる。思春期だから。それだけ。
でも……だけ、じゃない。
まともに恋愛をした経験がないから、だから好きになった人がいても、全部上手くいかなかった。
どこか、私は怯えていたんだ。
「姫……どうして俺を嫌うの?」
稚尋はどこか悩ましげに澪を見つめた。