【完結】泣き虫姫のご主人様
「っ……」
稚尋に問われ、その理由を澪は自分で考えてみる。
嫌いな所なら、言い足りないほど沢山ある。
「言ってみ」
そんなの、全部言えない。
「……全部」
澪が答えると、稚尋は興味深いと首を縦に振る。
「ふ~ん……」
そして今度は心底つまらなそうに相槌をうった稚尋。
何を思ったか、稚尋は強引に澪の唇を引き寄せた。
息が苦しい。
「…………はぁ」
やっと唇が解放され、澪は大きくため息をついた。
そんな澪に、稚尋は言う。
「これも……嫌い?」
「っ……! ……嫌いよ!ばか!」
稚尋の態度が、澪は気に入らなかった。
私が……男の子を本気で突き放せないの、本当は知ってるくせに。
意地悪……。
「……嫌い、ねぇ」
稚尋はわざとらしくため息をつく。
ジワリと、澪の瞳に涙が浮かぶ。
これ以上はもう、堪えられなかった。
「……もう、私行くからっ! ……もう……会わないから……!!」
そう言って、澪は稚尋の腕を振り払い、走った。
もう、稚尋には会わない。
稚尋と会うから、私はおかしくなる。
私はこんな風に男の子に接してもらったことがないから、だから……どうやって応えたらいいかわからないんだ。
「……素直じゃないねぇ」
走り去る澪の背を見つめ、稚尋は呆れたように笑った。
そう。素直になれない。
とっくに稚尋に溺れていたのに。
私は自分で、認めたくなかったんだ──……。