【完結】泣き虫姫のご主人様




 目の前に稚尋がいる。

 それはとてもありえない状況だった。


 どうして私の家を知ってるんだろう。


 そうして謎はまた謎をよぶ。




「やっほー」




「……なんでいるの」



 澪はあからさまに嫌悪に満ちた表情をする。



 先日、稚尋とはもう会わないと決めたはずだ。



 それなのに、稚尋から来てしまったら意味がない。




 稚尋はそんな澪を気にすることなく、ニコニコしながら澪の目の前にいる。



 おかしい。おかしすぎる。



「なんで……」



 混乱する澪に、稚尋は笑顔で言った。



「お見舞いだよ、お見舞い」


「なんで私の家がわかったの?」


 稚尋に家の場所は教えていない。


 誰かが教えた?
 だとしたら、暎梨奈?


「超能力?」



 稚尋の言葉に、澪は思わず咳込んでしまった。


「ばっ……馬鹿じゃないの!? ……いいから、帰っ…………て!?」



 グラリと体にかかる浮遊感。



 突然、目の前の視界が歪んだ。




 やっぱり、病院いけばよかった。

 そんなのんきな思考が、頭の中で渦巻いた。






 しかし、澪が床に倒れることはなかった。




「稚……尋、ゴホッ……」


 稚尋が澪を支えてくれていたからだ。




 今の澪には、立ち上がる力もない。


 そんな澪の額に稚尋はそっと触れた。





 稚尋の手は、大きくて冷たかった。



「……全然熱下がってねーな。お前置いて帰れねーって」



 それからの稚尋は澪が驚くほどに冷静だった。



「いいよ……別に」



 いつもと雰囲気が違う。





「そーか……それなら」


 稚尋はあくまで稚尋を拒絶する澪に笑って言った。



 その手は澪の腰のあたりにそっと添えられる。




「ひゃっ!」




「お姫様らしく、だっこがいい?」



 お、お姫様だっこ!?




 澪は慌てて稚尋の手を振り払い、言った。












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