【完結】泣き虫姫のご主人様







「わっ、わかったから! ……お見舞いだけだよ!?」





「……物分かりがよろしいようで」



 そこで澪はようやく事態を把握した。


 下腹部に伸びる稚尋の手を澪は見逃さない。




「こら」



 本当なら、すぐにでも追い出したい。



 でも今は、本当にまずい。立っていられない。




 稚尋と一緒にいるほうが、まずい気がするが、今は形振りかまっていられない。




 今は、緊急事態だ。


「手、貸して」




「……うん」



 澪は嫌々稚尋の手につかまりながら、自分の部屋へと戻った。





「……少し寝る」



「どーぞ」


 一度はお見舞いを許したが、やっぱり危険な気がする。

 いろんな意味で。



 澪は火照る体と自分の置かれた状況に、大きなため息をついた。







 稚尋は見境がない。



 今日の澪は熱でかなり弱ってる。





 今日こそ、本当に襲われかねない。





「……姫、聞いてる? なんか、して欲しいことは?」




「え!? ……あぁ、いーよ、大丈夫」


 突然稚尋に声をかけられ、澪は声が裏返ってしまった。




「そーか? なら、早く寝ろよ。熱、さがんねーじゃん」





「う……うん?」




 おかしい。


 どうして何もしてこないの?
 別に期待してる訳ではないけれど、こんな風に態度を変えられると調子狂う。





 これでは“特別”なんだと勘違いしてしまう。




「なんか、看病うまいね……?」




 不思議そうに首を傾げる澪に、稚尋は言った。




「あぁ、俺の姉がすぐに熱出すから……なれてんだ」




 稚尋は参った、と言うように自分の髪の毛をくしゃくしゃとかき乱す。





「稚尋、お姉さんいたんだ……」



 きっと稚尋に似て、美人なんだ。




「あぁ、まーな」



「今度見たい!!!」





 澪は大きな声でそう言った。




「……はいはい、わかったから。何お前。そんなに俺に興味出た訳?」




 澪が興味津々に体を起こすと、稚尋はおかしそうに笑っていた。



 やっぱりいつもの稚尋だ。



「ちっ! ちがくて! ばっかじゃないの!?」



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