【完結】泣き虫姫のご主人様
真っ赤になる澪に、稚尋は笑顔で思いついたように言った。
「あ、お前……ツンデレ?」
それには即行で否定した。
「な、ない!!」
「はははっ……わり。また熱あがるな」
そう言うと、稚尋は申し訳なさそうに澪の髪を優しく撫でた。
その仕草にドキリと胸が鳴る。
「手……握ってやる?」
「い、いいよっ」
「どっちの“いいよ”?」
穏やかな声で、澪の体調を気遣っているのがわかる。
その身に染みる優しさが澪をまた、混乱させる。
「繋がなくていい…」
「あっそ」
素直に、楽しい空間だった。
「じゃ、俺。帰るな」
しばらくして、稚尋はふと思い立ったように立ち上がった。
「どーぞ」
「冷てぇなー」
“ありがとう”の一言が言えない。
こんなに面倒を見てもらったのに、私は最後まで意地っ張りだ。
「寝てろよ?」
「うん」
そう言って、稚尋はそのまま部屋を出た。
「ゴホッ……ゲホッ」
稚尋が帰ってしまった瞬間、また一人になってしまった。
「……稚尋……来て」
私が稚尋を好きだったら、そんなことを願うのだろうか。
そんなことを考えながら、澪はそっとドアに呟いてみた。
その時、再び扉が開いた。
「……!? %#&*@ !」
フェイントだ。ずるい。
「なんで! 帰ったんじゃないの!?」
まさか今の、全部聞かれてた?
「いや、別に……ただ、まだ居たかっただけ」
そう言いながら、稚尋は自然に目をそらす。
絶対嘘だ。
「はぁ……?」
稚尋はそう言うと、何の言葉もなしに澪の隣に腰を下ろした。
「……?」
稚尋は優しく、澪の手を握った。
そして澪に言った。
「姫は素直じゃないから……姫が寝るまでいてあげる」
「……っ!?」
この人は本当に私と同い年なのだろうか。
そんな馬鹿らしいことを本気で少し疑ってしまった。
「熱、下がらないよ?」
「なっ……!」
「今日は。俺に従った方が正しいと思うけどなぁ?」
「……っ」
稚尋に真っすぐに見つめられた澪は、それ以上何も言えなくなってしまった。
そして、ゆっくり腕の力を抜く。
今日は仕方がない。
だけど少しだけ、優しい温もりを感じている自分がいた。
こんな自分、認めたくない。
本当は、ね。
★羞恥心
【END】