【完結】泣き虫姫のご主人様
「先生……頭痛いんで、保健室いってきまーす!」
今までの俺は、いつも毎日を適当に生きてきた。
「桜っ! お前、笑顔で何言ってる!」
「いやぁ……先生。マジなんですって」
そう言うと、稚尋は担任の言葉を無視し、授業を抜け出した。
それはもう、日常的なひとコマになっていた。
今さらクラスの人間はそんな稚尋を気にも留めず、一心不乱に黒板を書き写す。
教室を出た稚尋は、ある場所に向かっていた。
稚尋にとって、癒しと呼べる場所。
そこは今は誰も使っていない用具室だった。
学校の教師だって、知らない人間の方が多いかも知れない。
そんな秘密の場所に、稚尋の秘密があった。
「よう、待った?」
満面の笑みを浮かべる稚尋。
「……もぉ~遅いよ」
そんな稚尋を見つめ、頬を赤らめながら上目使いで稚尋を見つめる女。
相手は、日々違った。
寂しさを埋めるためだけに始めた秘め事は、いつしか取り返しのつかないところまできてしまった。
それでも当時の稚尋には、そんな危機感など一切なかった。
稚尋は微笑み、女のそばに歩み寄る。
期待と高揚。その両方から、女の肩がピクリと動いた。
「なぁ、君は……なんて名前?」
相手の名前なんて知らない。
先ほど初めて会ったばかりの女。
それ以上の情報は、ただ邪魔なだけだ。
「……琉梨」
「るりちゃん」
女の答えに、稚尋は笑顔で微笑み、知ったばかりの名前を呼ぶ。
そうすれば、女は途端に頬を染める。
同じだけの反応に、稚尋はそろそろ飽きていた。
「一回きりって約束は守れるよね?」
稚尋の言葉に、女は渋々首を縦に振った。
後腐れのない関係が理想だ。
女の恨みが一番恐ろしい。それでもこの関係を続けているのは、日々の生活に刺激を求めているからなのだろうか。
何のためにこんなことを続けているのか、自分ではさっぱりわからなかった。
確かに女の子と一緒にいる時間は楽しい。
しかしそれも一瞬の華。
時が経てばそんな感情、消えてなくなる。
いつから自分はこんな風になってしまったのだろう。
「はぁ……」
稚尋は思わず大きなため息をつく。
虚しい。