【完結】泣き虫姫のご主人様
「先生……私、おかしいのかな……」
本当は、全部わかっている。
稚尋はきっと、私が望まないかぎり、その先を求めない。
ただ、私が一人で空回りしてるだけだってことも、全部自分でわかっている。
だから、余計にもどかしかった。
泣きじゃくる澪に、冬歌の優しい言葉がふってくる。
「いいんじゃないの、おかしくても」
澪には、冬歌の言葉の意味がわからなかった。
「だって……私、もう違う人を好きになってる……しかも、素直になれないの……」
もう、どうしていいかわからない。
稚尋の本当の気持ちが知りたい。それだけなのに。
気持ちを聞くのがこわかった。
“遊びだったんだよ”
そんな風に言われたら、私は今度こそ立ち直れないだろう。
キィと小さな音と共に椅子に座った冬歌は、当たり前のように澪の質問に答えた。
「いいんじゃない? 素直になれなくても」
「でもっ……!!」
「だって、それが本当の恋でしょう?」
冬歌は、笑っていた。
本当の……恋?
今まで私がしてきた恋は何?
ニセモノノコイ?
今までの恋は、全部自分からダメにした。
先を焦り過ぎたせいで、すぐに恋人を欲しがって……。
今思えば、ただ単に『彼氏』という肩書が欲しかっただけかも知れない。
そのために私は何度も泣いた。
この保健室に通って、先生に泣きつきながら、何度も……何度も。
……馬鹿みたいだ。
つくづく自分が惨めになる。
今までの恋が無意味だと知った途端、何故か安堵する自分がいた。
顔がいい。性格がいい。その憧れを恋だと勘違いしてた。
ただ、それだけのことだったのだ。
「……稚尋でしょ? あんたが言ってる『素直になれない相手』てのは」
冬歌は、澪の気持ちを何でも説いて見せた。
「なっ……なな何で知ってんの!?」
やっぱり、噂が広まっていたのだろうか。最悪だ。
「あぁ、だってあたし……」
冬歌の口からは、澪の全く予期せぬ言葉が発せられた。
その答えに思わず腰を抜かすところだった。
「稚尋の義姉だもの」
澪の頭の中は一気に真っ白になる。
まるで、真っ白のペンキを零してしまったかのように、今までのことが頭の中から消え去っていった。