【完結】泣き虫姫のご主人様






 前に稚尋と一緒にいた女の子には、胸もおしりもちゃんとあった。




 こんな私の体じゃ、女として稚尋に見られる訳がない。






 それに比べて冬歌は見た目も中身も大人だ。





 ふくよかな胸に、見事な脚線美。






 それに比べて私は……撃沈。






 大人の冬歌と比べる方が失礼なことだとは思うけれど。





 冬歌は稚尋の義姉。





 澪は未だその事実が信じられずにいた。






「稚尋って、そんなに女遊びが激しいんですか?」




 澪の質問に、冬歌は首を傾げながら答えた。






「そうね……前は保健室でしょっちゅう……て感じだったけど。今は全然よ」



 そう言って、冬歌は慰めるように澪の頭を撫でる。



 澪は非常階段で稚尋を見てしまった。



 あの時の稚尋はとても怖かった。




 冗談が効かない、男の瞳。


 そしてそれを楽しむかのような笑顔。




 知らない稚尋の顔が、怖くて仕方なかった。





「……こんな話、聞いた?」


 うつむき、黙り込んでしまった澪を見て、冬歌はゆっくりと話始めた。








「あたしに稚尋は基本的に何でも話してくれる訳なんだけど…………この前ね? 稚尋、女遊びをやめるんだって言ってた」




 冬歌の言葉に、澪の肩がピクリと動く。




「聞いてません。そんな話」



 澪はキッパリと言った。




 澪に稚尋が近づく時は、決まって何か企んでいる時だ。



 自分が楽しかったら、充分。そんな雰囲気を纏いながら、稚尋は澪に近づく。





「そう。じゃあ……何で女遊びやめたのか、知りたくない?」


 冬歌はそう言って、ニコリと笑った。






 それは。






「知りたい!!!」


 当たり前じゃないか。


 あの稚尋に限って、簡単に女遊びをやめるなんて、病気にでもなっちゃったか、なんて思ってしまう。



 瞳を輝かせながら冬歌の言葉を待つ澪を見て、冬歌は笑った。




 そして、一言。




「“本当に、手に入れたい女の子が出来た”んだってさ」





 そう言った。







「え……?」




 澪の頬が一気に熱を持つ。



 そんな言い方をされたら、誰だって自惚れてしまう。


 稚尋はそれをちゃんと知っているのだろうか。




< 43 / 155 >

この作品をシェア

pagetop