【完結】泣き虫姫のご主人様






「稚尋、が……?」





 澪は戸惑いが隠せない。


 震える手の平で澪は熱く火照る頬を押さえる。




 そんな澪に対し、冬歌は呆れたように言葉をかける。




「それが、あんたなんじゃないの。澪」





 私が、稚尋の“本当に、手に入れたい女の子”なの?




 自惚れたくない気持ちと、肯定してしまいたい気持ちが、澪の中でぐちゃぐちゃにまざりあう。




 私のどこに、そんなに惹かれるの?


 たいして可愛くなんてないし、胸もないし……。



 私は、ただ泣くことくらいしか能がない弱虫なんだ。




 それなのに。



 貴方に守ってもらうことしか、私には出来ないのに。





 どうして貴方は、私をそんなにも好きでいてくれるの?




 澪には、それがどうしてもわからなかった。



「冬ちゃん……」



「ん?」




「私、そんなにいい子じゃないよ。稚尋が私を本気で好きな訳ない」





 澪は自分に自信が持てなかった。








 否定的な言葉を口にする澪に対し、冬歌は表情一つ崩さずに言う。




「そんなの、本人に直で聞きなさいよ」



「無理だよ……」




 無理。


 澪はそう言って、うつむいてしまった。







『私の事が好きなの?』


 そんなことを稚尋に自分で質問できる訳がない。




 もし、質問できたとしても、本気の解答は絶対に返ってはこない。




 私には無理なことだ。





 大きく首を横に振る澪に、冬歌は目線を合わせ、言う。







「ほら。もう7時だし。稚尋、昇降口で待ってるって言ってたから……」



 冬歌の言葉に、澪は目を見開いて驚く。





「え?」



 そんなの、聞いてない。


 時刻は午後7時。


 流石にもう、帰っただろうと思っていた。


「行ってあげなさいよ。稚尋は本気みたいだから」



 嘘、嘘、嘘、嘘……。


 嘘だよ…………。





 澪はその事実がどうしても信じられなかった。



 稚尋が私なんかのために、そこまでする訳がない。




 一途な想われ方をされたことがない澪には、信じがたいことだった。




「でもっ……」



「何がでもなの。どっちみち、もうここ閉めるから。出て」



 冬歌は、シッシッと澪を追い返すように手ではらった。





「ん……ありがとう…………お姉さん」




 稚尋のお姉さん。


 たとえ普段慣れ親しんだ保健室の先生だとしても、今目の前にいるのは稚尋の義姉である冬歌だ。



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