【完結】泣き虫姫のご主人様




 * * *



「……………………」




「……………………」




 夜の通学路に響く、二つの足音。





 二人で帰っているのに、間に会話はない。



 本来なら、私が何か言わなきゃいけないはずなのに。




 澪は沈黙の中、その何倍も思考を巡らせていた。




「……はぁ」



 何かを言わなくてはいけない。


 そうは思っていても、何を話していいのかわからない。


 わからないからまた考える。


 そんな繰り返しだった。









 澪はついに覚悟を決め、口を開いた。



「…………ねぇ」



 沈黙を破った澪の声に、稚尋はピクリと反応する。



「ん?」



「あっ、あの……さ、一つ聞いていい?」



「んー……何」



 稚尋は切れた口元を気にしながら答えた。



 稚尋は優しい。



 私は、大切にされている。


 本当に…………そう思ってしまう。




 私は馬鹿だから、簡単に人を信用してしまう。





「あの、学校裏サイトって……知ってる?」




 その言葉を聞いた稚尋の顔が、少し暗くなったように見えた。



 気のせいだろうか。




「知ってる」


 稚尋は、静かに答えた。


「じゃあ、内容も知ってるよね?」



 夜の町に、二人の足音だけが響いていた。



 二人の間に流れる空気はとてもピリピリしていて、張り詰められた糸のようだった。




 一言一言が、鉛のように重たい。


 澪の言葉に、稚尋は苦笑いをしながら言った。






「知ってる。俺と姫のことだろ?」





「……ちゃんと、わかってたんだね」




「まぁな」



 稚尋はそう言って、困ったように眉を下げた。





 そんな稚尋の態度を見た澪は、ピタリとその場で足を止める。



 そんな澪の行動に、稚尋も不思議そうに首を傾げながら足を止める。




 そして、澪は言った。


「今、ここでキスしてよ」

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