【完結】泣き虫姫のご主人様
訳がわからなかった。
澪は確かに今日、同級生の小林 大輔にフラれた。
それは変わりようのない事実だ。
それなのに。
「お前、俺達の間でなんて呼ばれてるか……知ってる?」
澪には美少年の目的が全く読めなかった。
「知らない」
美少年はニヤリと笑い、澪の耳元で囁いた。
「泣き虫姫」
え?
「なっ……!」
なんで私が姫?
だめだ、頭が追い付かない。
「姫……コバミより、俺と遊ばない?」
美少年はそう言って、澪に近づいた。
「……やっ……やめてよ!」
そのいきなりの行動に、澪は美少年を突き飛ばしてしまった。
しかし、美少年は澪の腕を掴み、引き寄せる。
男の力に女の澪が敵うはずがなかった。
「嫌っ……!」
抵抗など大した意味は成さない。
突然両腕の自由を奪われた澪の瞳には、大粒の涙があふれてくる。
そんな澪の姿に、美少年はクスリと笑ってみせた。
「その顔……好きだな……」
「嫌だったらっ!!」
「……っ……!」
しかし、澪が男の力に敵うはずもなく、体の力が抜ける。
澪の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
そんな澪の姿を見て、美少年は一瞬目を見開いた。
本当に泣かれるとは思っていなかったのか、美少年の余裕な表情が一瞬崩れた。
「泣くなよ……まぁいーや……今日は名前覚えてもらえれば」
美少年はそう言うと、澪の腕を解放した。
「……っ……」
「俺は桜 稚尋《サクラ チヒロ》ね、覚えといてよ……姫?」