【完結】泣き虫姫のご主人様




 その突然の言葉に、稚尋は目を見開いて驚いた。



 そして、次の瞬間には耳まで真っ赤になった。


 これには澪が驚いた。






 曖昧な関係は嫌だった。


 だからこそ、この手段を選んだ。



「え……?」



 稚尋はよく状況が掴めていないようだった。




 追いかけるのは得意だが、追いかけられることは得意でないらしい。




 息がつまる。





 自分の気持ちを確かめるために発した言葉だったが、言ってすぐ、澪は自分の言葉を後悔した。



 それでも、ここで引き下がることは出来ない。


 その方が、後でもっと後悔する。



「キスしてよ、今。私のことが好きなら、出来るでしょう?」




「……っ……」




 自分は……何を言っているのだろうか。



 稚尋は戸惑っていた。


 その間に、澪は瞳を閉じる。







 どうして、稚尋にキスをねだっているのだろう。



 恋人でなければ友達でもない。




 ついに、私は頭がおかしくなったのだろうか。


 ……………………。




 ……………………。




 いくら待っても、稚尋のキスがやってくることはなかった。







 いたたまれなくなり、瞳を開けると、そこには真剣な表情の稚尋がいた。




 稚尋は毎日言ってくれる。




『俺の女になれって』



『可愛い……』



 十分なはずだった。



 ──本気で守りたい、女の子が出来たんだってさ、──



 あの言葉だけで、十分なはずだった。



 ──それってあんたの事でしょ? 澪──



 私は何を望んでいるの?



『絶対! 俺のこと好きって言わせてみせるからな?』




 そうだ。


 稚尋はいつも私の気持ちを弄んできた。


 今の私はもう、稚尋に夢中なのに。




 だから、あなたの『好き』が欲しい。



 冬歌先生が、これを本気の恋と言うのなら、稚尋の『好き』をもらったら……私はどうなるんだろう?




 それが知りたい。



 でも、今は無理みたい──………。





澪はゆっくり稚尋を見上げた。


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