【完結】泣き虫姫のご主人様






 * * *



「あのね……」


「うん」




 澪は恐る恐る稚尋の顔を見た。


 稚尋も、澪が見ていることには気付いているだろう。





 しかし、稚尋は一度も澪と目を合わせようとはしなかった。


 いつもの雰囲気とは、だいぶ違っていた。




「私……今いじめが酷くて」


 澪は俯きながらボソリと口を開いた。





「……クラスの奴らからか?」


 突然の話題に、稚尋は目を見開く。


 しかし、口調は優しいままだった。



「うん。サイトでも、見るのは私の悪口ばっかり……もう、疲れちゃってさ」


 ハハハ、と力無く笑って見せる澪。


 多分その顔は、すごく酷いものだろう。


 言われなくても、自分でわかる。



 そんな澪の頭の上に、ポンッと稚尋は自分の手を置いた。




 大きな手のひらが、安心感を澪に伝わる。



 稚尋は、切ない表情で笑いながら言った。





「……俺に、出会わなかったらよかったのに……とか、思ってる?姫」


「……違っ!!」



 稚尋の言葉に、涙が、頬を伝った。


 別に、何も違ってはいない。



 先ほどまで、そう自分でも思っていたのに。



「……俺、姫が好きだよ?」



 “好きだよ”





「…………っ……!」



 それは澪が今までずっと待ち望んでいた言葉。


 何度も告白する度に、半分諦めていた言葉。


 一番好きな人に言われたかった言葉。



「今の稚尋に言われても……あんまり、嬉しくないな」


 まだ、澪の気持ちは曖昧なまま。



「……俺、女遊びやめたんだ」



「え……?」



 稚尋は急に澪の方を向いて言った。





 距離が、近すぎる。



 それは冬歌から聞いていたことだ。


 しかし、本人に言われると、やはり驚き具合が違う。



「他の女とは、もうなんの関係もないよ」




 どうして彼は、私のためにそこまでするのだろう。




 ばか。私以上の大バカ。




「なんで?」


 澪の質問に、稚尋は頭をかきながら答えた。


「だって、本命に好きだって言ってて、俺が影で他の女と遊んでたら……やっぱ信用性ねーじゃん」



 稚尋の言葉に、澪はため息をつく。



「わかってないじゃん……全然」




「……え?」




「稚尋が急にそんなことしたら、そのとばっちりは私に来るんだけど……」


 それくらい、わかってよ。

 そう言おうとして、澪は慌てて言葉を飲み込んだ。



 今日の私はやはりおかしい。普段なら、こんな台詞絶対に言わない。



 澪は悲しい顔で稚尋を見つめた。


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