【完結】泣き虫姫のご主人様
澪は反射で稚尋を叩く。
「痛ってぇなぁ……しょーがねーじゃん!!! 俺は姫が好きなんだからさぁ!? 俺だって男なんだよ」
「すっ……好きとか言うな―っ!!!」
「言っちゃ悪ぃかよ!」
「悪くないけど!」
はぁ。
はあっ。
呼吸が荒い。
二人とも、ベンチに向かい合って言いたいことを言い合った。
そう。
今の私達には、こんなくらいの関係がちょうどいいのかも知れない。
「はぁ……もう、分かったよ……」
もういいや。
クラスの子達から無視されても。
「まじ!」
「それから……」
澪は稚尋の方を向き、言った。
「友達からなら、なってあげてもいいよ……」
澪は顔を真っ赤にしながら、そう言った。
稚尋は意外な澪の返答に、一瞬目を見開いて驚いた。
しかしすぐに調子は戻る。
「うっわ、ツンデレで上から目線? さっすが姫」
「は? ……あーあ、友達やめようかなー!」
「ひでー!!」
わざとらしく残念がる稚尋に、思わず笑みがこぼれる。
「嘘よ」
ずっと、私は探していたのかもしれない。
稚尋みたいな人を。
本気なんだね、稚尋も。
だから私今、こんなに気が楽なんだね。
「帰る?」
「そうだね、もう暗いし」
そう言った途端に、澪の足に伸びてきた指。
澪は瞬時にその手を振り払った。
「痛ってぇ……」
「今言ったばっかりでしょ?今どこ触った!」
まったく、本当に変わらない。
「ふともも……」
「私、先帰るから!」
「ちょっと待てって! 暗いんだから、送ってく」
そう言って、稚尋は澪の腕を掴んだまま、放さなかった。
「いいって」
澪がいくら力を入れても、稚尋の手は振りほどけない。
「よくねーの、馬鹿」
澪は稚尋の後をゆっくりとついていく。
「バカじゃないもん…………」
「はいはい」
澪はそのままズルズルと稚尋に手を引かれていった。
澪の心の中にあったもやもやが消えた。
あの気持ちは何だったんだろう。そう思えるくらい、澪の心は晴れやかだった。
それがどうしてなのかはわからない。
だけど今、二人の関係は。
「姫、こっち向いて」
「え……?」
ちゅっ
「!?」
甘酸っぱい苺味。
★重なる想いは苺味
【END】