【完結】泣き虫姫のご主人様
「なっ、何でいるのよ!」
「え~? たまたま通りがかったら姫が見えたから」
何、その言い訳。
稚尋の横では暎梨奈も好奇心に満ちた顔をしている。
「ふーん、姫って呼ばれてんだー?」
暎梨奈はそう言ってクスクス笑っていた。
しかし、その空気は一瞬、凍てつく空気に変わった。
「お、暎梨奈じゃん……」
稚尋が、暎梨奈を見たからだ。
「ん―……久しぶりだね?」
「そうだな」
なんかだ、二人の世界を形成してしまっている。
どう言うことなの?コレは。
空気が……重い。
次の瞬間、稚尋が暎梨奈の髪を撫でた。
澪の胸がチクリと傷む。
「……相変わらず、だな」
その表情は、切ないような淋しそうな、そんな風に見えた。
この二人は、一体どういう関係なのだろうか。
そこに澪の入る隙はない。
暎梨奈は笑顔で稚尋の手を払い、言った。
「触らないでよ? えりが稚尋のことを嫌いなのは、稚尋が一番よくわかってるでしょう?」
目が、笑っていない。
暎梨奈、怒ってる?
「知ってる、そんなの。」
そう言いながら、稚尋は澪にもたれかけている腕に力を入れた。
「えりに構ってないで、澪の相手をしてあげなよ? 言っとくけど、泣かせたら容赦しないから」
相変わらず笑顔の暎梨奈。
こんな相手に敵意剥き出しの暎梨奈を見たのは初めてだった。
暎梨奈の問い掛けに、稚尋はため息をついた。
「無理っしょ? こいつ、すぐ泣くし」
泣かせてるのは稚尋でしょうが!!!
「あんたが優しくしないからじゃん」
暎梨奈は吐き捨てるように言った。
暎梨奈の言う通りだ。
「してるさ……だって俺、まだこいつに何にもしてないんだぜ?」
そう言いながら、稚尋は澪を指さした。
恥ずかしさで真っ赤になる澪を見て、今度は暎梨奈がため息をつき、吐き捨てるように言った。
「下品なんだよ、稚尋は」
暎梨奈はそう言って、稚尋を睨んだ。
暎梨奈も、そんな瞳をするんだ。
澪はただ驚いていた。
「男ですから。しかたねぇだろ?」
「意味わかんないから」
「あっそ。仕方ねぇ。澪借りるぞ」
そう言って、稚尋は澪の腕を引っ張った。