【完結】泣き虫姫のご主人様






「で? 私が邪魔って訳だ。いいよ~、ここで見守っててやっても」




 冬歌はニヤリと笑った。



 だけどそれは困る。




「馬鹿言うなよ」



 稚尋は大きなため息をついた。




 そんな稚尋を見て、冬歌は先程とは違い、優しい笑みを浮かべ、言った。




「あんた、変わったね……」



「そりゃどーも」



 稚尋の言葉を聞き、冬歌が椅子から立ち上がる。



 そして、白衣のポケットから鍵を取り出し、稚尋に向かって投げた。



「ソレ。貸してあげるから鍵だけは閉めなさいよ? 次の時間まで帰ってくるから」




「あ、……さんきゅ」




 そんな冬歌の突然の計らいに、稚尋も拍子抜けしたようだ。






 冬歌が出ていった後、残されたのは澪と稚尋だけ。



 澪は思わず身構える。


 そんな澪を見て、稚尋は吹き出した。



「緊張しすぎだろ……ハハハ」



「わっ!?」



 突然、稚尋が澪の腕を引っ張り、自分へと引き寄せた。




 その力で、澪は稚尋の隣に倒れこんでしまった。



 稚尋の顔が、近い。



 それだけで、澪の心臓がうるさく鳴り出す。






 稚尋はおもむろに立ち上がり、扉の方へ向かう。


 澪はその様子を不思議そうに見つめた。



 そして扉の前まで来た稚尋は、カチャリと鍵をしめた。


 これで密室の完成。


 その様子を見ていた澪は思わず体を震わせた。




「鍵……しめたの?」





 澪の問いに、稚尋は平然と頷いた。



 なに、その笑顔は。




「なぁ。そんなことより姫……俺さ、何でお前をここに呼んだかわかってる?」


 稚尋の笑顔が近づいてくる。


 そんな瞳で見つめられたら、もう動けない。


 澪は稚尋の思い通りになる他、なかった。




 稚尋は澪の横に腰を下ろした。




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