【完結】泣き虫姫のご主人様





 心臓の音が伝わってしまいそうな稚尋との距離。



 沈黙が続く中、ドキドキは余計に加速した。




「なっ……」



「なぁ、姫……あのさ……ここで俺と…………」


 稚尋の言葉に、澪は固まってしまった。




「少し、話し合わない?」



 突然だった。



「…………へ?」



 その稚尋の言葉に、一番拍子抜けしたのは澪の方だった。




 きょとんとする澪の瞳を見て、稚尋はまた可笑しそうに笑った。




 恥ずかしい。


 澪は自分の耳が真っ赤になるのがわかった。





 恥ずかしい……!!





「何を期待してたのかは聞かないけど……ちょっと俺に姫の本音を聞かせてよ」



「は?」




 そして、稚尋の表情が真剣なものに変わった。



 その強い瞳から、澪は視線を外すことが出来なかった。




「やっぱり、姫は俺が嫌い?」


「……嫌い」



 それは強引が稚尋だから。

 もっと優しくして欲しい。


 うつむく澪に、稚尋は更に質問を重ねた。



「……姫、俺と一緒にいるのは……苦痛?」




 その言葉に、澪は顔をあげ、稚尋を見た。




 稚尋は、そんなことを思っていたの?



 稚尋の気持ちを考えると、澪は胸が苦しくなった。



「そんなことっ……!」



 そんなことない。


 この時間が苦痛だと言うのなら、私はおかしい人間だ。



 私はただ……素直な自分になれないだけ…………。



 稚尋の言葉に、澪は涙が溢れ出そうになった。




 やめてよ。



 そんな優しい顔で私を見ないで……。







「俺の本音はただ一つ……俺は姫が好き」




「……信じられない」



「どうして?」





「………………」



 その問いに、澪はなぜか答えることが出来なかった。



 ただただ、長い沈黙が続いた。




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