【完結】泣き虫姫のご主人様






 稚尋は自分を信頼してくれていた。


 それだけで、冬歌は泣きそうになった。



 四年間の信頼を、稚尋はちゃんと分かっていた。



 大丈夫、稚尋を裏切ったりしないから。



 あたしの、大切な弟だもんね。



『稚尋……あたしが結婚しても、大丈夫だよ? ずっと……稚尋の味方だから』



 冬歌までもが泣いていた。


 冬歌が稚尋の涙を見たのは、この時以来、一度もなかった。





 二十四歳になった冬歌は、最愛だったはずの人と離婚した。



 多分、相性が悪かったんだと思う。



 冬歌は久しぶりに家に帰ることが、なによりの楽しみだった。



 十三歳になった稚尋。


 中学生になった稚尋。




 ちゃんと生活しているだろうか。



 ちゃんと、心の闇は払われたのだろうか。




 そう思いながら、冬歌は扉を開けた。






『ただいまー』




 そして、久しぶりに見た稚尋は……依然より、冷たくなっていた。




『お帰り、冬歌』


 稚尋は笑っていたけれど、その笑顔には皮肉が込められていた。




『何よ、その笑顔は』



 冬歌も、結婚生活で少し口調がきつくなった気がする。


『わかった? さすが冬歌』


 あたしがいない間に、何があったのよ?




『俺、雛にフラれたから』


『……え?』



 稚尋が言う、雛とは。


 久崎 雛子《クザキ ヒナコ》

 稚尋の幼なじみだ。



 その雛子に……フラれたの?


 ていうか、稚尋が雛子を好きだったってことが初耳なんだけど。



『えっ……フラれたって?』



『そのまんまの意味だよ。だから…もういいんだ』



 稚尋はそう言って、自分の部屋に戻ってしまった。



 稚尋と雛子は稚尋が冬歌の弟になる前からの付き合いだ。



 そのよしみで、冬歌も雛子と仲良くなった。




 いつからそういう関係になったのよ?



 冬歌は玄関で頭を抱えた。


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