【完結】泣き虫姫のご主人様
それからだ。
冬歌は保健医として稚尋の学校に配属されたのだが、それをいいことに稚尋は毎日のように違う女の子を保健室に連れ込んだ。
最初は雛子にフラれたショック? なんて同情してたけど。
さすがに疲れて、冬歌は稚尋にキレた。
『ここはあんたの性欲処理の場所じゃないのよ? するなら、他にいってよ!!』
というか、女の子と関係を持つ度に崩れてゆく弟を、見たくなかっただけかもしれない。
それからしばらくして、稚尋はこの保健室を睡眠のためだけに利用し始めた。
『先生……お話、いいですか?』
そんなある日、保健室に可愛い常連がやってくるようになった。
彼女とはすぐに仲良くなり、冬歌は本当のお姉さんのように相談にのった。
それが澪。
決まって放課後の前に保健室を出る稚尋と、放課後に保健室に来る澪が会うことはなかった。
それからしばらくして、珍しく稚尋が冬歌に相談を持ち掛けた。
稚尋も、十五歳になっていた。
『冬歌……俺、おかしくなったかも知れないんだけど』
そういう稚尋の額を触って、冬歌は笑った。
『熱は……ないみたいよ?』
『そうじゃねーって!! 手に入れたい女なのに……何もできない』
そう言うと、稚尋は悔しそうに俯いた。
あらあらあら。
こんな稚尋、珍しい。
本気で動揺してるんじゃない?
『ふーん……誰なの?』
稚尋は、静かに言った。
『朝宮……澪』
稚尋の告白に、冬歌は驚いた。
『朝宮なら、ここの常連だよ?』
『は? まじ?』
『まじ。放課後にいっつもいるよ?泣きながら』
あの子も恋多き女の子だもんね。
澪の泣き顔が頭を過り、冬歌は思わず笑みをこぼす。
今度こそ、彼女が幸せになれるかもしれない。
そう思ったからだ。
『どうしたんだろ……俺……』
稚尋がここまで乱される姿、久しぶりに見た。
あたしの結婚式からだから……雛子以来?
『朝宮が……本命なんじゃないの?』
稚尋を乱す子なんて、そうはいない。
あたしも朝宮のことはよく知ってるし、朝宮なら、稚尋を変えられるかもしれない。
稚尋の、あたしが払えなかった心の闇を……拭い取ってくれるかもしれない。