【完結】泣き虫姫のご主人様
* * *
「昔の約束なのに……ね」
つい、思い出してしまった。
「あーあ……」
そろそろ職員室に戻らなくてはいけない。
保健室の外に、先ほどから人影が見える。
冬歌は首を傾げた。
多分、あれは──……。
冬歌は何の迷いもなく、扉を開けると、その影に視線を落とす。
やっぱり。
人影は、冬歌の思ったとおりの人物だった。
「いつまでそんな所にいる訳? ……稚尋」
ちょうど凹みになっていて、保健室の中からでないとわからない場所。
そこに稚尋はいた。
何を隠れてるの?
大口叩いて、未遂だったから?
それとも──………。
『冬、歌……』
何をそんなに弱っているの?
最近の稚尋は稚尋じゃないみたいだ。
あの、大人びていた稚尋はどこにいったのだろうか。
本当に、稚尋は変わった。
「朝宮、えりちゃんに直接聞きにいったよ」
そう言うと、稚尋は「わかってる」と小さく頷いた。
盗み聞きなんて、悪趣味なんだから。
冬歌は小さくため息をつく。
「そう。いいの? このままじゃ、また同じ道を辿るよ? あんた」
また、不幸を呼び寄せてしまう。
「けじめ、つけなきゃな……澪を……えりなんかにいいようにさせてたまるかよ!」
分かってるじゃん。
自分のしなきゃいけないこと。
冬歌はフフッと笑みを浮かべた。
「えりちゃんも。本格的に動き出したみたいだから」
稚尋……大好きな人は、自分で守らなきゃ。
それが、自分が犯してしまった過ちなのだとしたら、尚更。
「やっぱり、あんたと朝宮……すっごくお似合い」
最近じゃあたし、稚尋が幼い少年に見えるから不思議。
きっと、稚尋をここまで変えたのは、朝宮だ。
「頑張りな? あたしは稚尋の味方だから……」
そう言って、冬歌は稚尋に笑いかけた。
朝宮を利用しちゃってるみたいで悪いけど。
稚尋には幸せになってもらわなくちゃ。
「あぁ。ありがとな、冬歌」
稚尋にお礼なんて言われたの、いつぶりだったっけ?
「頑張れ」
より一層強く稚尋に言って、冬歌は稚尋の頭を撫でた。
あたしより身長が大きくなっても、稚尋はあたしの弟だもんね。
頑張りなよ、稚尋。
稚尋に笑いかけ、冬歌は職員室へと歩き出した。
「……っし!」
稚尋は立ち上がる。
絶対に……澪を守る。
そして。
「気持ち、聞かなきゃな」
明日のために。
★姉と弟“冬歌”
【END】