【完結】泣き虫姫のご主人様
十三歳になり、冬歌がいなくなった後、稚尋は雛子へ気持ちを伝えようとした。
今度は雛子が味方になってくれるのではないか、そう思ったからだ。
だけど。
『雛……俺、お前が好き』
そう言った稚尋に雛子が返した言葉は。
『雛も、ちーが大好きだよ!!』
あの頃と何も変わっていない感情だった。
だから。
『雛、そういうんじゃなくて……俺』
稚尋は焦ってしまった。
稚尋は笑顔の雛子に、無理矢理キスをした。
ずっと、触れたかった相手に触れたことで、稚尋は我を忘れた。
『!? ………んっ』
ドンドンと稚尋の胸板を苦しそうに叩く雛子。
それがまた、稚尋の理性を狂わせた。
辛そうにする雛子の顔を見る余裕すら、なかった。
その時だった。
稚尋は頬に、鈍い痛みを感じた。
それが雛子に殴られた痛みなのだと気づいた時には、涙を流す雛子の姿に稚尋は自分の弱さを呪った。
『ちー……ちーなんて、大嫌い』
稚尋はこの時初めて、雛子の泣き顔を見た。
稚尋は雛子を傷つけてしまったのだ。
それから、雛子は稚尋の家に遊びに来なくなった。
稚尋は完全に雛子にフラれてしまったのだ。
“大嫌い”
泣き顔で言った雛子の言葉が、顔が、稚尋の頭から離れない。
その一ヶ月後、離婚した冬歌が家に帰ってきた。
冬歌は帰ってくるなり、稚尋の異変にすぐに気付いた。
だからこそ、雛子のことも全部、稚尋は冬歌に言った。
冬歌は稚尋を抱きしめ、言った。
『辛かったら、辛いって言いなよ』
冬歌に抱きしめられたのは初めてなのに、すごく落ち着く自分がいた。
それから稚尋は、事ある毎に学校の女子を抱くようになった。
初めて抱いた女の子は、稚尋が傷つけてしまった。
しかし、稚尋は過ちを繰り返し続けた。
感情が、麻痺していた。
雛子を忘れられない。
十五歳になった今でも、稚尋は二年前の出来事を忘れられない。
そんなある日だった。
稚尋は、澪と出会った。