【完結】泣き虫姫のご主人様
「で。後は澪を傷つけて、奪っちゃえば……えりの計画は完成って訳」
そう言って、暎梨奈は笑顔で澪に手を伸ばした。
その手は澪のワイシャツを掴む。
「大嫌いなの。えりの純情を踏みにじった稚尋も。大好きだった稚尋を奪う澪も」
「……っ……!」
暎梨奈の澪のワイシャツを掴む手に、力が入ったのが分かった。
澪は突然の事で、体が動かない。
でも。
「えり、私たち親友だったよね……?」
それだけは、えりに笑顔で言って欲しかった。
暎梨奈を見つめる澪に、暎梨奈は笑顔で答えた。
「親友? ……始めから、えりと澪の間にそんなものなんてないよ? 思ってたとしたら……澪だけ」
そう言って、暎梨奈は皮肉を込め、笑った。
それだけは……言ってほしくなかったのに。
最後の希望まで、奪われた気がした。
「澪はね? 稚尋の宝物なんだって。だから、えり。泥棒しちゃった」
そう言うと、暎梨奈は先程までワイシャツを掴んでいた手を放した。
澪はその場に崩れ落ちる。
言葉のかわりに土に染み込んだのは……悲しみの涙だった。
澪はただ、涙を流すしか、なかった。
「泣いた? 澪は泣けばいいと思ってる! ……稚尋も、同情したんじゃない?」
「……違っ……!!」
「何も違くなんかないでしょう? 澪は、稚尋に気に入られてる……でも、そのうち捨てられるけどね」
暎梨奈が座り込む澪を見て、同じように座り込んだ。
そして、笑った。
「えりが……壊してあげる……」
スッと、暎梨奈の手がのびてくる。
ここは中庭と言っても、普段は人が立ち入らない場所。
誰も助けてはくれない。
もう……だめだ。
澪の頬に、鈍い痛みが走った。