【完結】泣き虫姫のご主人様




 一瞬、時が止まった。




「………………?」



 澪は感じた違和感に首を傾げた。



 頬に痛みがない。



 私、今叩かれたよね?




 澪は目を閉じながら考えた。


 そして、ゆっくりと目を開けた。


 そこにある光景を見るために。



「…………なっ!」



 その光景は、目を疑ってしまうようなものだった。




「えり……何やってるんだよ」



「あ……ちっ、稚尋!? なんで……!」






「痛てぇんだよ……えり」



 澪の代わりに稚尋が暎梨奈の平手打ちを受けていた。


 暎梨奈も驚いているようだった。




「何であんたがここにいんのよ……?」



「俺が、澪の居場所を見失うと思ったか?」



 そう言って、稚尋は暎梨奈に向かってニヤリと笑った。



 恐怖感から一気に開放された澪はまた、涙を流した。


 涙が止まらなかった。



「何よ? カッコつけちゃって。稚尋、あんたわかってないの? えり、全部言っちゃったんだよ? 稚尋の事」


 暎梨奈は勝ち誇ったように、フンッと鼻を鳴らした。



「…………っ」



澪はただ泣くことしか出来ない。


それが悔しかった。



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