【完結】泣き虫姫のご主人様





 暎梨奈の言葉を聞いた稚尋は、笑顔になった。




「だからどうした?」



 そして、暎梨奈に言った。



「は……?」



「暎梨奈。お前、俺が澪に何も話してないと思った? 澪は俺のそんなこと、とっくに知ってるんだよ」




 初めは確かに傷ついた。



 なんで私が遊ばれなきゃいけないんだっ!なんてすごく悩んだ。



 でも辛かったのは、私より稚尋なんだってわかったから、真っ正面から全て受け止める。


 そういう覚悟は出来ているつもりだ。




「……あ、そう。なら、えりはもう負けちゃうんだ? せっかく、二年かけて、中学生活諦めてまで頑張ったのに。酷いよ」



 ポタリと暎梨奈の頬を伝った涙。



 暎梨奈の泣き顔なんて、初めて見た。



 今までの感情を流し出すように、暎梨奈は鳴咽混じりに泣き続けた。




 暎梨奈は、稚尋を睨み付けた。



 その表情はまるで鬼の形相だ。



「あんただけは許さない……一生、えりを忘れさせはしないっ!」




 そう言うと、暎梨奈はポケットからカッターナイフを取り出し、一気に刃を出して見せた。



 太陽に反射して、刃がキラリと妖しく光る。



 澪はゴクリと生唾を飲み込む。



 暎梨奈は泣きながら笑っていた。



 完全に狂っている。



 そんな瞳だった。



「えりはね……? 今、何だって出来る……澪を傷つける事だって」



 そう言って、暎梨奈は澪に刃を向けた。



 澪の背中に、ゾクリと言いようのない恐怖が襲った。




「ねぇ稚尋……どうして、えりを一番に思ってくれなかったの?」



 ポタッポタッと、暎梨奈の瞳からは、とめどなく涙が流れた。



「……………」


「……もう、いい。」



 そう言うと、暎梨奈はカッターを振り上げた。




「……っ!」




 澪は、瞳を閉じた。




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