【完結】泣き虫姫のご主人様
その時だった。
「そこまで。島田。もういい加減にしなさい! あんたの負け」
「っ! ……放してっ!」
また、助けられた。
「ふ……冬ちゃん」
冬歌は暎梨奈からカッターを奪い、うしろから押さえつけていた。
カッターが地面に擦れて響く音がした。
カッターが暎梨奈の手を離れ、地面に落ちた。
すかさず冬歌はヒールで踏み付ける。
踏み付けられたカッターは、砕け、破片が辺りに散らばった。
同時に、先程まで抵抗していた暎梨奈の力が一気に抜けた。
ガクンッと体が崩れる。
「……っ……」
暎梨奈は泣いていた。
「どぉしてよぉ……っ……どうして……全部上手くいかないの?」
暎梨奈の言葉に、冬歌はため息をついた。
澪は腰が抜けて立つことが出来なかった。
「それは……あんたが朝宮のこと、最後まで嫌いになれなかったからでしょ」
「…………なっ」
「そうでしょ? えりちゃん?」
暎梨奈はただ、俯くだけだった。
何が……どうなってるの?
「なっ……何言ってるんですか? 先生」
「何って……事実でしょ。えりちゃん、朝宮のこと……本当に嫌ってたの?」
その言葉に、澪は驚いた。
そしてそれが、澪にとって唯一の救いのようにも思えた。
暎梨奈は、ただ一言言った。
「大嫌いですよ……澪なんて」
暎梨奈はギリッと、歯を食いしばっている。
冬歌は呆れたように暎梨奈を見た。
「じゃあ、コレは?」
「ちょっ……!」
ごそごそと、冬歌はおもむろに暎梨奈のポケットをまさぐった。
そして暎梨奈のポケットの中から、あるものを引きずり出す。
それには、見覚えがあった。
「それ、私があげた……マスコット?」
友達の証として、澪が暎梨奈にプレゼントしたものだった。
「…………っ」
「もう、嘘はやめなさい」
「……っ……だって」
暎梨奈は澪をキッと鋭い瞳で睨み付け、言った。