【完結】泣き虫姫のご主人様
「……澪はずっとえりを疑うことなんてなくて……それが不思議でならなかった」
「朝宮は純粋にあんたを親友だって、思ってたんでしょ」
「……嫌いになれないなんて、油断だった……だから、失敗したんだ……」
暎梨奈はそう言って、自分の髪の毛を掻き乱した。
綺麗なサラサラの髪型が崩れる。
「今からなら、やり直せるんじゃない?」
冬歌がそう言うと、暎梨奈は力無く笑い、言った。
「無理だよ……」
「無理じゃないよ」
「は?」
「あたし……えりを嫌いになんてなれない」
澪はそう言って、笑った。
「だって今までずっと……えりは澪を騙してたんだよ?」
澪の顔を見ながら、暎梨奈は驚いているように見えた。
だってね、えり。
今までずっと親友だったんだもん。
いまさら嫌いになんて、なれないよ。
「でも、いいんだよ」
今まで黙って見ていた稚尋が不意に、暎梨奈に近づいた。
そして、そっと暎梨奈の頭に手を置いた。
「そういう事。最後までこいつを嫌いになれなかったお前なら、俺がこいつに本気な訳、わかるだろ?」
え…………。
稚尋、今。
本気って言った?
聞き間違いなんかじゃ、ないよね……?
澪は自分の顔が真っ赤になるのが分かった。
「……ごめん。暎梨奈……俺が悪かった」
稚尋の言葉を聞いた瞬間、たまりかねたように、暎梨奈は大粒の涙を流した。
「……あの時、謝ってくれてればえりは……こんな事なんてしなかったっ……」
「ごめん」
「……稚尋……えりね? ……稚尋が………大好きだったよ…………」
その時の暎梨奈は、最後に可愛く笑っていた。
これが、本来の暎梨奈なんだね。
私たち、また友達になれるかな?
澪がそう言うと、暎梨奈は照れくさそうに頷き、ただ一言。
「うん」
と呟いた。
ねぇ稚尋。
でも、あなたの受けた傷は、こんなものじゃないんでしょう?
その傷を隠すために、どのくらい他人を傷つけてきたの?
きっと死にたいくらいに辛かったんでしょう。
でも、死なないであなたはちゃんと生きてる。
だから……ゆっくりでいいから、傷を塞いでいこう?
ねぇ、稚尋。