【完結】泣き虫姫のご主人様




 “可愛いじゃん。"



 お世辞なんでしょ、どうせ。



 わかってるのに、頬が熱い。



 歩きながら俯く澪に、稚尋が言った。



「隣町なら、誰にも会わないって」


 稚尋はそう言って、笑った。



「……え?」



 だから隣町にしたの?


 私のために?



「……ありがとう」


 恥ずかしくて、稚尋が触れている部分が熱くなる。



 その後は、無言で稚尋の手に引かれていく他、澪には手段がなかった。




「さぁ、どこ行く?」



 笑顔で澪を見つめる稚尋。


 何か裏があるんじゃ、なんて、疑わずにはいられなかった。



「何、その無駄な笑顔」



「え? 姫を一日中独占できる喜びの笑顔」





「何言ってんの……」



「本音」



 稚尋は笑いながら、澪に腕を絡ませてくる。



 嬉しい。


 嬉しいんだけどさ。



 なんか、こう、胸の奥が苦しいんだよね。

 なんでだろう……?



「……稚尋、私イルカが見たい」



「了解」



 稚尋は澪を連れて、歩き出した。







< 95 / 155 >

この作品をシェア

pagetop