【完結】泣き虫姫のご主人様
“可愛いじゃん。"
お世辞なんでしょ、どうせ。
わかってるのに、頬が熱い。
歩きながら俯く澪に、稚尋が言った。
「隣町なら、誰にも会わないって」
稚尋はそう言って、笑った。
「……え?」
だから隣町にしたの?
私のために?
「……ありがとう」
恥ずかしくて、稚尋が触れている部分が熱くなる。
その後は、無言で稚尋の手に引かれていく他、澪には手段がなかった。
「さぁ、どこ行く?」
笑顔で澪を見つめる稚尋。
何か裏があるんじゃ、なんて、疑わずにはいられなかった。
「何、その無駄な笑顔」
「え? 姫を一日中独占できる喜びの笑顔」
「何言ってんの……」
「本音」
稚尋は笑いながら、澪に腕を絡ませてくる。
嬉しい。
嬉しいんだけどさ。
なんか、こう、胸の奥が苦しいんだよね。
なんでだろう……?
「……稚尋、私イルカが見たい」
「了解」
稚尋は澪を連れて、歩き出した。