【完結】泣き虫姫のご主人様
* * *
「すごい……キレー」
「そうか?」
大きな水槽の前で二人並ぶ澪と稚尋。
その水槽の中では、気持ちよさそうにイルカが泳いでいた。
「ねぇ……稚尋」
ここが水族館だからかな。
海の底みたいだからかな。
すっごく、不思議な気持ち。
「……ごめんね」
素直な言葉が言えるんだ。
「何が?」
「“嫌い”だなんて言って」
「……え」
「私、稚尋が…………」
最後の言葉を言いかけて、稚尋が澪の腕を掴み、歩き出した。
「……稚尋?」
「………………」
稚尋は何も言わなかった。
「…………」
どこに向かっているかも分からず、澪は稚尋についていく。
「……ごめん澪」
「え?」
稚尋が弱々しい顔で澪を見た。
全てが、初めて見る稚尋だった。
稚尋はポケットをごそごそとまさぐりながら、呟いた。
「今は、お前の口から聞きたくない」
「どうして?」
どうしてそんなに弱ってるの?
今日だって、どうして私をデートに誘ったの?
ねぇってば。
何か言って。
「澪……お前、絶対に俺から離れんなよ……?」
稚尋はそう言って、ポケットに入れていた手を出した。
「稚……尋?」
稚尋が取り出したのは、イルカのネックレスだった。
「……澪」
水槽の中では、優雅に泳ぐ二頭のイルカがいた。
★スイートな1日
【END】